医師の職務は「病気」を「診断」し、「治療」することとされます。このような考え方をDOS(D-Oriented System:疾患中心主義)と言います。このDは、Disease(病気)であり、Doctor(医師)です。科学的な側面を強調した今の医学は、ややもすると「病気を治して、病人を癒さず」という結果に終わってしまいます。患者さんの満足度と医者側の満足度が一致しないのです。
その解決法としてWeed博士が提唱した考え方がPOS(Problem Oriented System:問題志向(指向)システム)です。
POSのPは、患者さんが抱える様々な問題(Problem)のPです。そしてPatient(患者本人)であるPerson(人)と言う意味も含みます。POSとは「患者さんの問題点を中心に、その問題の解決をめざして診療する」ということです。
そしてPOSを実践するために編み出された医療記録方法がPOMR(Problem Oriented Medical Record:問題志向型診療録)です。
カルテメーカーはPOMRに完全に対応しています。POMRはその煩雑さ故に臨床の現場では敬遠されがちですが、コンピュータの力を借りる事でその欠点をカバーして簡単に使う事が出来ます。
カルテメーカーにはPOMRに対応した様々な入力インターフェースと、POMRを活用するための情報パネルや検索機能、POMRの特徴を活かすための様々な表示機能を実装しています。
従来のカルテには「治療行為」しか記載されていません。特に歯科のカルテは2号用紙のタイトルに「療法・処置」しか書いておらず、単なる保険の請求書と揶揄されるレベルです。
最近は多少の改善はあるものの、基本的に医師が治療行為を時間軸にそって記録するだけで主役は治療行為そのものであり、秩序も形式もなく後で読んでもなぜこの治療法を選択したのかという根拠も曖昧で独善的な記録となっていました。
POSではプロブレムを軸に記録が展開されることと記載のためのスタイルを決めたことにより、カルテが論理的で構造化された文書になりました。これにより
POSで診療を行うには次の3つを実施します。
後述するような患者さんが抱える問題(プロブレム)を整理し、それごとに経過記録をする形式のカルテを作成します。
POMRで記録するだけではPOSとは言えません。POSの神髄はこの監査にあります。監査では主に次の2つをチェックします。
記録したカルテが正しい記述になっているか、そもそも検査や治療行為が間違っていないか、より良い治療方法があるのではなかったかなどを定期的にカルテを見直して監査します。
POMRで記録するという事は、このような後々の監査で妥当性を検証するためでもあります。より良い記録は医療の質を向上させ、また医療提供者を守る砦となります。
監査によりプロブレムの抽出がおかしい、記録の分類や論理性がおかしいという場合は速やかに修正します。修正は二重線で消すなど必ず前の記録が確認できるようにします。
より良い治療方法があるのであれば計画の修正をします。また治療のガイドラインの修正、あるいは病院システム全体の改善もこの範疇となります。
POMRは大きく分けて以下の4つのパートから構成されます。
基本データは診療の基礎・前提とすべき情報です。主に初診時の医療面接を元に作製されますが、その後も必要に応じて加筆されます。基礎データの含まれる主な項目は以下の通りです。
基本データを元に患者さんが抱えている問題(プロブレム)点をリストアップします。プロブレムには診断が確定しているのなら病名を採用します。確定していない問題はそのまま挙げます。医学的な問題だけでなく、社会的な問題、心理的な問題も列挙します。
基本データの一部ではありますが、問題リストを決定した理由や経過、治療の大まかな方針や設定したゴールなどを記録します。
問題を解決するための初診時における計画を問題ごとに立案します。この計画には、治療のための「治療計画」、診断を確定させるための「診断計画」、患者さんに説明をしたり必要な指導を行うための「教育計画」などがあり、必要に応じて区分して記載します。
プロブレムごとにどのような経過をたどったかを記録します。記載はSOAP形式で行います。SOAPとは
のことで、経過をこの分類に従って記載します。
経過記録には、SOAPだけでなく次のような項目も記録します。
POMRの素晴らしさは誰もが認めるところではありますが、残念ながら普及していません。その最大の原因は記載が煩雑で時間がかかることです。特に歯科のように短時間で記入が必要な外来では手書きでは対応は不可能だと思われます。
また物語的な記述はじっくりと時間をかけてカルテを読み解くのには向いていますが、時間がない外来では実用的ではありません。
それをカバーするのはコンピュータの力です。カルテメーカーではPOMRを実用的に運用できるように様々な工夫をしていますが、その一端をご紹介します。
基本データの入力は処置セットの「主訴・現症」で行います。このような専用の入力画面で入力します。「計画」ボタンを押して画面を切り替え、既往症や生活歴、考察、初期計画を入力します。
問題リストの作成と治療計画の策定は、「治療計画」という項目を使って入力します。
SOAPはSOAP入力用の処置セットを使います。「抜歯SOAP」「根治SOAP」のように処置パターンに合ったSOAP入力を選ぶことでSOAP入力を手早く入力できるように工夫してあります。
処置セット内の「患者さんへの説明(治療の説明)」を使って処置の説明を簡単に入力できます。この文章は患者さんへの治療報告書に反映されます。
POMRでは常に問題リストと治療計画を確認しながら治療が進みます。そのためカルテメーカーでは情報パネルに常に表示されるようにしてあります。
口腔内の治療状況をグラフィカルに表示します。右クリックするとその歯の治療履歴が表示されます。
サマリー表示に切り替えれば、口腔内全体の計画の進捗状況が一目で確認できます。